数字は恐ろしい。8日の準決勝で地元ブラジルがドイツに大敗を喫して以来、テレビや新聞には試合結果を意味する「1×7」の文字があふれている。9日にオランダ対アルゼンチンの準決勝が行われたサンパウロの競技場でも、アルゼンチンのサポーターが隣国のライバルをやゆするようにスペイン語で「1、2、3…7」と連呼し、気勢を上げていた。
当地で初開催された1950年W杯の決勝でブラジルがウルグアイに逆転負けした試合は、「マラカナンの悲劇」として広く知られている。当時のGKバルボーザは2000年に他界するまで、敗戦を許した責任の重みに耐えながら生きたという。今後は、「7」という数字が、ブラジルの人々にとってトラウマとなっていくのだろうか。
選手や監督にも厳しい数字が突きつけられた。日本でもおなじみとなった試合ごとの採点だ。10点満点で3~4点を付けた新聞は、まだ穏やかな方。スコラリ監督やFWフレジら何人かの選手は「0」評価。一方、レーウ監督やMFクロースに「10」を付けたのを始め、ドイツの選手らには軒並み高評価を与えて、自国代表のふがいなさを際立たせていた。付け加えれば、署名入りで情け容赦なくゼロを付けた記者もあっぱれだ。
今回の大敗は、ブラジルサッカーにどんな影響を及ぼすのだろうか。「マラカナンの悲劇」後は、その時着ていた白のユニホームを現在のカナリア・イエローに変えた。縁起が悪いと忌み嫌ったのだ。同じことはあり得ないにしても、対戦相手が畏敬の念を持って接してきたユニホームの“神通力”が落ちることは間違いないだろう。
スコラリ監督が「何が起こったか分からない」と混乱を隠せない中、国際サッカー連盟(FIFA)公式サイトに、1994年大会の優勝監督で現代表のテクニカルディレクターを務めるパレイラ氏の「ドイツは選手や指導者のトレーニング施設を多く持ち、その基盤は完璧だ。われわれは選手育成をもう一度考え、見直し、投資するときに来ている」という冷静なコメントが紹介されていた。
「裸の王様」ならぬ「裸のサッカー王国」となったブラジルが、再建に向けてドイツを手本とするというのか。欧州と南米の交流が世界のサッカーの発展を紡いできたとはいえ、ブラジルサッカーの代名詞である「Jogo Bonito」(美しいプレー)の伝統とスタイルが失われるようでは寂しい。
石川あきらのプロフィル
サッカージャーナリスト。1956年、東京都生まれ。慶応大学卒。「サッカーダイジェスト」の編集に携わり、編集長を務める。ワールドカップは1982年スペイン大会から取材を続け今回が9回目。
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