最終登録された23選手のクオリティーだけではチーム力を判断できない国。それが、ナイジェリアを2―0で下し決勝トーナメント1回戦を危なげなく突破したフランスだ。
ユニホームの色から「レ・ブルー」(青)の通称を持つこのチームは、近年のW杯で常に素晴らしいタレントを擁してきた。とは言え、結果はふたを開けてみなければ分からないというのが実際のところだ。
1994年米国大会は出場を逃すも、自国開催の98年大会で初優勝。世界王者として臨んだ2002年日韓大会では一転、1次リーグで最下位に沈んで敗退。欧州主要3リーグの得点王をそろえながら、3試合で1点も取れない散々の成績だった。
同じことは繰り返される。06年ドイツ大会で準優勝したが、10年南アフリカ大会ではまたも1次リーグ最下位。この時は主力のアネルカがドメネク監督に暴言を吐いて代表から追放。この処分に抗議した選手たちが大会中の練習をボイコットするなどおよそプロらしからぬ行動を取り、チームは崩壊した。
アフリカ系も含め、多民族で構成されるチーム。それをまとめるには、鬼軍曹のような厳しいリーダーが必要だ。初優勝を飾ったときの主将デシャン監督が指揮を執る今回のチームは、集団の輪を重視する。起用に対する不満を隠さないナスリを最終登録メンバーから外した時や、大会直前に故障したリベリを他の選手と入れ替えた時に、躊躇を感じさせなかったのはそのためだろう。
リベリのいない今大会のフランス代表で、スターと呼べるのは、主将のGKロリスとFWベンゼマくらい。そのなかで脇役がいぶし銀の働きを見せている。
ナイジェリア戦でも、先制ゴールを奪ったのが21歳のポグバ。2得点を演出したのが、身長166センチの小柄な仕掛け人バルブエナ。圧倒的な迫力こそないが、よく仕事をする。そして、その労働力はチームのために注がれている。
サッカーはメンバー表に記された名前で戦うのではない。それを考えると、今大会のフランスには何かを起こす予感がする。過去を見るまでもなく、この“気まぐれな”国は、最悪のあとに、大きな喜びをもたらしてきたという事実があるからだ。
岩崎龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル
サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続となる。
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