準々決勝で打って出た奇策。結果的には、それが裏目に出たのではないだろうか。
オランダが2大会連続4度目の決勝進出を目指し、アルゼンチンと相対した試合は、0―0のまま延長戦を終えた。準々決勝のコスタリカ戦に続き、オランダの運命はまたしても約11メートルを挟んでの神経戦、PK戦へと委ねられることになった。
コスタリカ戦では、トップレベルの試合ではまずお目にかかれない光景があった。PK戦のためにGKをシレッセンから、控えのクルルに替えたのだ。そして、そのクルルが見事にシュートを2本止めて、勝利を収めた。オランダのファンハール監督からすれば「俺の采配、冴えているだろう」といったところだっただろう。ところが、自信家で知られるこの指揮官も2試合連続でPK決着になるとはまさか考えていなかったはずだ。
キッカーとGKが1対1で対峙するPKは、精神的な要素に多くが左右される。W杯レベルの選手なら、技術的には狙った位置を外す選手はまずいまい。しかし、W杯ではこれまでも勝負を決する大事な場面で、いずれも名手といわれたブラジルのジーコ、フランスのプラティニ、イタリアのバッジョらが失敗してきた歴史がある。その原因はキッカーがGKを過大評価することにある。「あの位置では止められるのではないか」。蹴る直前にそんな思いが脳裏をよぎったキッカーは、より厳しいコースを狙ってしまう。その結果、自らミスを引き寄せてしまうのだ。
オランダは延長前半6分に最後の交代カードとして、FWのフンテラールを投入した。この時点で、アルゼンチン側からすれば「PK戦になったら勝てる」との確信にも近い思いがあったのではないだろうか。クルルが相手ならば、余分なプレッシャーが生じたに違いない。一方のシレッセンはコスタリカ戦で交代させられているだけに「PK戦に弱い」とのイメージを持たれていたとしても不思議ではない。W杯でレギュラーを張るほどのGKならば本来、弱点があるとは思えない。だが、アルゼンチンの選手たちは間違いなく気が楽になっただろう。
アルゼンチンのGKロメロが2本をセーブした後、勝負を決定する4人目のロドリゲスは力まかせに蹴り込んだ。精神的優位に立っていなければ、あんなシュートは蹴れまい。
岩崎龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル
サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続となる。
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