ドイツが準決勝でブラジルに7―1と大勝し、同じ相手に0―2と敗れた2002年日韓大会以来の決勝進出を決めた。
まさか、このような歴史的試合を見られるとは思わなかった。「サッカー王国」ブラジルがW杯では初となるまさかの7失点、ドイツのFWクローゼが大会通算得点記録を塗り替える16点目…。この試合で生まれた新記録、タイ記録を並べるだけで、十分に一つの記事が書けるだろう。
ドイツは実に合理的なプレーで大量点をもぎ取った。丁寧にパスをつなぎ、相手がマークに来れば味方に球を渡す。これを繰り返しながら相手を本来のポジションからおびき出すと、知らず知らずのうちにスペースが生まれる。まさに一枚一枚、相手の守備を「はがし」ながら、シュートに持ち込む。余裕を持ってシュートが打てるから、計14本のシュートで12本がゴール枠内に飛ぶ正確さ。地道に、確かな製品を生み出すドイツ伝統の職人技といったところか。それも正確なパスが蹴られるインサイドキックが中心というのもドイツらしい。
パスの正確性は、国際サッカー連盟(FIFA)公式サイトのデータにも表れている。準決勝までの6試合でつないだパスは最多の3421本(成功率82%)。南米といえばパスをつなぐイメージがあるが、ブラジルのそれは全6試合で2249本(同75%)。ドイツのサッカーが正確なパスに支えられ、MFシュバインシュタイガーが「今回のブラジルはかつてのような魔術師ではない」と自信を持って臨んだのもうなずける。
また、ブラジルの弱点もしっかり研究したようだ。前半11分から同24分までに挙げた3点は、いずれも右サイドが起点。ブラジルの左サイドバック、マルセロが攻撃参加した後のスペースだ。公式記録ではピッチを九つに区切り、各枠内で球を保持した割合が示される。ドイツの攻撃方向の右角部分では10%、前半だけだと14%という高率だった。この他、センターバックのDFダビドルイスが前方に進出した際にも、球を奪って素早く攻めようという意図が見られた。
「(敗戦の)責任は私にある。ラインアップ、戦術を決めたのは私だから」とブラジルのスコラリ監督は肩を落とした。負傷のFWネイマール、出場停止のDFチアゴシウバという攻守の要の欠場が、これほどまでに大きく影響するとは想像できなかった。
石川あきらのプロフィル
サッカージャーナリスト。1956年、東京都生まれ。慶応大学卒。「サッカーダイジェスト」の編集に携わり、編集長を務める。ワールドカップは1982年スペイン大会から取材を続け今回が9回目。
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