他の組のシード国に比べれば、それほどの迫力は感じられない。ただ、チームの流れがうまい方向に向いているという感じがするのが、H組のベルギーだ。
欧州予選を無敗で通過する圧倒的な強さを見せて、昨年末にはFIFAランク5位に上昇。W杯組み合わせ抽選で、シード権を勝ち取った。しかし、予選終了後に行われた昨年11月の強化試合では日本に敗れるなど、それまでの勢いが消えた感もあった。
今大会の初戦でも、力が劣ると見られたアルジェリアに先制を許した。不安の残る内容だったが、後半25分、同35分と立て続けにゴールを奪い逆転した。
劣勢から試合をひっくり返す。このような展開で勝てると、ある意味で楽に勝つよりチームの士気は高まるものだ。若い選手が多いだけに、「俺たちはやれる」の勢いは確実に増すはずだ。
第2戦となったマラカナン競技場(リオデジャネイロ)のロシア戦。ベルギーは、サイドアタッカーのメルテンスの突破力を生かした攻撃を見せた。ただ、ゴール前の精度に欠け、得点のにおいはしなかった。逆に、守勢だったロシアは徐々に主導権を取り返し、前半44分のココリンのヘディングなど決定的な場面を幾度か作り出した。
お互いがある程度の攻め手を繰り出すものの、ゴールの予感に乏しい試合。後半12分にウィルモッツ監督が切ったカードは19歳のオリジだった。5月13日のメンバー発表時はA代表の出場経験がなかったため、ベルギー国内でもビックサプライズとしてとらえられた。才能があるとはいえ、エースストライカーのルカクに代えて投入するのには、指揮官としての大きな度量が必要だったはずだ。だがウィルモッツ監督に迷いはなかった。
引き分けが見え始めた後半43分、ベルギーは左サイドをアザールが突破。そのクロスを豪快に蹴り込んで決勝点を挙げたのがオリジだった。賭けは正解だった。
2戦連続で見事に選手交代が当たり、2連勝でベスト16による決勝トーナメント進出を決めた。やることなすこと、うまくいき過ぎる今大会のベルギー。短期決戦で「赤い悪魔」が乗らないはずはない。
岩崎龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル
サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続となる。
※無断転載を禁じます。 当ホームページに掲載の記事、写真等の著作権は大分合同新聞社または、情報提供した各新聞社に帰属します。