決勝トーナメント1回戦の8試合はいずれも激戦で、いよいよW杯が佳境に入ってきたことを実感する。初めてW杯を取材した1982年スペイン大会以来「これほど8強入りを懸けた戦いが激しかったことはあったか」と思い、記録を調べてみたら、やはり例のない接戦続きだった。
16強による決勝トーナメント1回戦が導入されたのは、86年メキシコ大会から。今大会は同1回戦8試合のうち、5試合が延長戦にもつれ込んだ。これは90年大会の4試合を上回る最多だ。さらに、全て2点差以内で決着したのも初。前回の南アフリカ大会決勝トーナメント1回戦でブラジルはチリに3―0で快勝したが、今回は同じ相手にPK戦の末、薄氷を踏む思いの突破。これだけ各チームの力がきっ抗すると、86年大会の同1回戦でスペインがデンマークに5―1と大勝したような試合は、もう起こり得ないと思えてくる。
こうした接戦の原因の一つに、好GKの存在が挙げられないだろうか。事実、国際サッカー連盟(FIFA)が試合ごとに発表する最優秀選手「マン・オブ・ザ・マッチ」には、決勝トーナメント1回戦8試合中5試合でGKが選ばれている。ファン投票による選考のため異論はあるかもしれないが、参考にはなるだろう。PK戦勝利に貢献したジュリオセザール(ブラジル)、ナバス(コスタリカ)は分かるとしても、オチョア(メキシコ)、エムボリ(アルジェリア)、ハワード(米国)の3人はいずれも敗戦チームの守護神。彼らの奮闘が、接戦を生み出した。
ハワードは1次リーグのポルトガル戦に続く2度目の受賞。8強を懸けて戦ったベルギーの決定機を何度も防ぎ、「彼のおかげで(勝利への)望みをつなぐことができた。称賛に値する」とクリンスマン監督。ベルギーのウィルモッツ監督も「クリンスマン監督、米国代表、そして特に素晴らしいプレーを見せたハワードを祝福したい」と称賛した。
もちろん、勝利に貢献したGKも。ドイツのレーウ監督は延長戦で粘るアルジェリアを振り切った後に「ノイアーが後方を整えてくれた」と、幅広い守備範囲でピンチを救った守護神に感謝した。
負ければ後がない戦いが続く決勝トーナメント。栄光を目指してゴールを狙うストライカーたちと、その前に立ちはだかる「ゴールの番人」の勝負から目が離せない。
石川あきらのプロフィル
サッカージャーナリスト。1956年、東京都生まれ。慶応大学卒。「サッカーダイジェスト」の編集に携わり、編集長を務める。ワールドカップは1982年スペイン大会から取材を続け今回が9回目。
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