ブラジルにとって正念場となるドイツとの準決勝前日、当地のテレビ局がアルゼンチンの首都ブエノスアイレスと中継をつないで「どちらが決勝に進むと思うか」という質問を人々に投げていた。「ドイツ」と答えた中の一人は、自国の決勝進出を前提に「われわれは1990年の借りを返さなければならない」と話していた。
「借り」というのはW杯イタリア大会決勝でマラドーナ擁するアルゼンチンが西ドイツ(当時)に0―1で敗れ、連覇を逃したことを指している。だが24年前の借りを返すためには、まず16年前の雪辱を果たす必要がある。98年フランス大会準々決勝で、今回の準決勝の相手であるオランダに1―2と競り負けているのだ。
MFマスケラーノは「相手選手のクオリティー、経験を考えれば、(準々決勝の)ベルギー戦より厳しい試合になるだろう」と気を引き締める。W杯では過去4戦して1勝1分け2敗と負け越し、唯一の勝利は延長戦の末に3―1と勝った78年アルゼンチン大会の決勝のみだ。
しかし、今回は期待が持てそうだ。フォーメーションで物議をかもした1次リーグから、決勝トーナメントに入って好守とも次第に調子を上げてきた。エースのFWメッシは1次リーグで「省エネ」の批判も受けたが、決勝トーナメントでは躍動感が出てきた。国際サッカー連盟(FIFA)公式サイトのデータによれば、準々決勝のハイスピードで動いた距離は、延長戦となった決勝トーナメント1回戦のスイス戦前後半を約400m上回り1941mだった。さらに、素早い寄せで球を奪いにいくなど、守備面の積極性も目立った。
大会前は不安視されていた守備の安定も好材料だ。決勝トーナメント2試合で無失点はアルゼンチンだけ。守備ラインの背後を簡単に取られたり、カウンターアタックを許す場面が減ってきた。所属のモナコで今シーズンのフランスリーグ出場が3試合のみと試合勘が心配されたGKロメロも、好守連発で5連勝の快進撃を支えている。
この守備陣が、オランダの誇るロッベン、ファンペルシー、スナイダーの攻撃トリオをいかに封じるかに決勝進出が懸かる。特にロッベンのドリブルは、反則なしで止めるのは難しい。アルゼンチンもメッシやFWイグアインが積極的に仕掛けるだろう。「ドリブル合戦」が決勝進出の明暗を分けそうな気がする。
石川あきらのプロフィル
サッカージャーナリスト。1956年、東京都生まれ。慶応大学卒。「サッカーダイジェスト」の編集に携わり、編集長を務める。ワールドカップは1982年スペイン大会から取材を続け今回が9回目。
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