全国・海外ニュース/ スポーツ

【W杯コラム】点取り屋の存在感

[2014年07月06日 13:12]

 予想していないボールがやって来ても、体が無意識のうちに反応する。本物のストライカーとは、そういう類の生き物なのだろう。むしろ、彼らはその瞬間のために生きている。だから、体の向き、ボールに当てる足の角度を本能で調整して、ゴールというターゲットを確実にロックオンする。

 前半8分。アルゼンチンの右サイドバック、サバレタがライン際を駆け抜ける。ボールを持つディマリアが選択したのは、ゴールライン際のスペースを狙うスルーパスだった。しかし、ボールはベルギーDFが足に当てて、カットした。

 ボールは予想外の弾み方でゴール正面に。そこにいたのが、アルゼンチンのFWイグアインだ。決して簡単なバウンドではない。慌ててボールをたたけば、ゴールの枠を外しただろう。しかし、ストライカーならではの本能が、小さな、そして的確な修正を施す。体の角度をゴールに合わせ、右足ボレーで正確にボールを捉えた。予想外の強襲だったのだろう。ベルギーのGKクルトワは、虚を突かれたようにボールを見送るしかなかった。

 今回のアルゼンチンが強いかと問われると、まだまだという感想だ。ただ、迫力は物足りないものの、この類の点取り屋がいる。脇役の献身的な働きも、24年ぶりのベスト4進出の原動力だろう。一方のベルギーは、タレントの数ではアルゼンチンを上回っていたが、点取り屋がいなかった。1―0の差は、その違いだった。

 アルゼンチンが2度目の、そして最後のW杯優勝を飾ったのが1986年メキシコ大会。今大会の代表が置かれている状況はその時に似ている。国民から「史上最弱」といわれるほどタレントのいないチーム。だが、一人だけ規格外の選手がいた。マラドーナだ。この天才の独力で世界の頂点を極めたといっていい。

 今回のチームにも、メッシという稀有な才能がいる。決勝トーナメントに入ってからは“休眠がち”だが、本領を発揮すれば誰も止めることはできない。ポルトガルのロナルドがあっけなく大会を去り、ブラジルのネイマールまでいなくなってしまった。その意味で真のスーパースターと呼べるのはメッシ一人。大会を盛り上げる主役がいなければ、W杯はつまらない。残り試合はあと二つ。そろそろメッシには目覚めてほしいものだ。

 岩崎龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル
 サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続となる。

スポーツ一覧

7月06日

7月05日

7月04日

7月03日

7月02日

7月01日

6月30日

6月29日

6月28日

6月27日

6月26日

6月25日

6月24日

6月23日

6月22日

6月21日

6月20日

6月19日

6月18日

6月17日

6月16日

6月15日

6月14日

6月13日

6月12日

6月11日

6月10日

6月09日

6月08日

6月07日

※無断転載を禁じます。 当ホームページに掲載の記事、写真等の著作権は大分合同新聞社または、情報提供した各新聞社に帰属します。
Copyright (c) 2008 OITA GODO SHIMBUNSHA