チリが前回王者のスペインに2-0と快勝して勝ち点を6とし、オーストラリアに3-2と競り勝って2連勝のオランダと共に1次リーグB組を突破した。国際サッカー連盟(FIFA)の公式サイトによれば、これまではスペインの8勝2分けで、チリは初勝利を挙げたことになる。
試合開始まで1時間を切り、チリのファンがスタジアム内のプレスセンターに乱入し、勢い余って壁などを壊す出来事があった。同センター内にいても早くから「チ、チ、チ、レ、レ、レ。ビバ、チレ(チリ)」というおなじみの応援フレーズが響き渡り、サポーターの熱気が直に伝わってきた。スタンドは両チームのカラーである赤で染まったものの、圧倒的なのはチリへの声援。南米開催のW杯をあらためて実感する。
チリは前半20分、ビエルサ元監督の時代からトレードマークとなっている厳しいプレスから、見事に先制点を奪った。背後に寄せてバックパスを誘い、球を奪ってビダル、サンチェス、アランギスが右サイドで連動。折り返しを受けたバルガスが、巧みにGKカシリャスをかわして決めた。
出場選手中、GKを除けば180センチ以上がおらず、センターバックのメデルに至っては171センチというチリ。だが、全員が献身的に走り、体を張る。「このチームは反骨心があるプレーをする」とアルゼンチン人のサンパオリ監督。その一生懸命さが、見る者の共感を誘う。
両チームの明暗が最も分かれたのはGKだろう。チリのブラボは敗れた前回南アフリカ大会1次リーグのスペイン戦で、失点の要因ともいえるプレーがあった。今回はクロスを堅実に処理して不安視された高さ不足を補い、終盤にはイニエスタのシュートを好セーブで防ぐなど、守りのヒーローといえる活躍を演じた。
前回大会の最優秀GKとなってスペインの初優勝に貢献したカシリャスは、前半43分にFKをパンチングでクリアした球をアランギスに蹴り込まれるなど、初戦のオランダ戦に続き失点の原因をつくってしまった。
後半開始前、入場を待つスペインの選手たちが記者席のモニターに映し出された。カシリャスの唇が「バモ(ス)」(さあ行こう)と動いたように見えた。だが、仲間を鼓舞するはずの主将の表情は、どこかうつろで力がこもっていなかった。
石川あきらのプロフィル
サッカージャーナリスト。1956年、東京都生まれ。慶応大学卒。「サッカーダイジェスト」の編集に携わり、編集長を務める。ワールドカップは1982年スペイン大会から取材を続け今回が9回目。
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