大会2日前のサンパウロを歩いていると、「ここはサッカーの国だよな。本当にW杯が始まるの」という雰囲気だった。開幕戦が行われるサンパウロ・アリーナの記者部屋も人はまばら。未完成のスタジアムの工事に携わる作業員も、雨が降ったこともあり作業を中断する呑気さだった。
ラテンの人は、熱しやすく冷めやすいとよく例えられるが、ブラジルにいきなりW杯の熱気が吹き荒れたのではないだろうか。国民のアイドル、ネイマールが2得点。さらにオスカルが追加点。それも逆転勝利となればドラマ的にも盛り上がらないはずはない。
大会初ゴールはマルセロのオウンゴール。クロアチアは前半7分、29分と決定機を迎えたので、これが決まっていればさすがのブラジルといえども勝利は難しかっただろう。
ただ過去19回のW杯の記録をみれば、このようなデータが残っている。開催国は初戦に絶対に負けない。2002年日韓大会の共催も含め、20カ国の開催国はいまだ初戦で敗れたことはないのだ。
確かにこのデータが、将来にわたって続くという根拠はなにもない。そのなかでなぜこのような結果が出るかについてこじつければ、以下のような要素が考えられる。一つは開催国がシードされること。もう一つはホームの観客の声援が、少なからず、審判のジャッチに影響を与えるということだろう。
その観点からいえば、ブラジルの2点目となった西村雄一主審の判定は微妙だった。確かにクロアチアDFロブレンの手はブラジルFWフレジの肩口に掛かっているのは間違いない。しかし、主審によってはこのプレーで反則を取らない場合もあっただろう。試合後の記者会見。ブラジルのスコラリ監督に浴びせられる質問のほとんどはこのPKの判定だったことを考えれば、難しい判定だった。ただ西村主審の毅然とした態度は、この大会の判定の基準となったことは間違いない。
町に響き渡るブラジル人の歓喜の声。1カ月の長いW杯が、また始まったと実感せずにはいられない。
岩崎龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル
サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続となる。
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