決勝トーナメントに入って、3度目の延長戦。しかも休養日はドイツより一日少ない。それでも、好勝負を演じるのだからアルゼンチンはすごい。試合前には正直、完敗もあるのではと思っていたが、これこそがサッカーが文化として確立している国ならではの底力なのだろうと感じ入った。
勝つために何をするべきかを知っている。そして、球際では徹底的に戦う。W杯の目的は“自分たちのサッカー”の披露ではなく勝利という自明のことを、アルゼンチンは身を持って示した。日本人からすれば耳が痛い。
ただ、このサッカーで優勝したとしても、サッカーの未来はない。その意味では、最も完成度が高かったドイツが4度目の世界王者に輝いたことは、心からよかったと思う。
1930年にウルグアイで第1回が開かれて、節目の20回目。加えて、アメリカ大陸開催で初めて欧州の国が頂点に立つなど、今大会は歴史的なW杯になった。4強にはドイツ、アルゼンチン、オランダ、ブラジルと最高の顔ぶれがそろった。ただし、強さと質の高さを兼ね備えたサッカーを見せてくれたチームはドイツだけだった。
真の意味での大会のスーパースターが現れなかったのは寂しかった。ロナルド(ポルトガル)が去り、スアレス(ウルグアイ)が自爆し、開催国ブラジルのネイマールはけがのため消えた。大会MVPを意味する「ゴールデンボール」がメッシとアナウンスされたときには、正直驚きを抑えられなかった。
一方、GKにはこれまでにない最高の選手がいた。ドイツのノイアーだ。4年前の南アフリカ大会では安定感に欠けるところがあったが、素晴らしいプレーを連発して最優秀GKに輝いた今大会を通じ、世界最高の評価を不動のものにしただろう。
そんな高レベルのGKと相対すると、FWは平常心を保てない。延長前半7分に見せたパラシオへの寄せは、まさにそれだった。コースを狭められ慌てたパラシオは正確にミートすることができず、ループシュートを失敗した。今大会のノイアーはやはり、メッシ以上に価値のある選手だった。
長かった大会も、ようやく終わり。プレスセンターには、くたびれ果てた記者たちが、最後となる原稿を打っている。そしてそれぞれの国へと帰っていくのだろう。この人たちを再び顔を合わせるのは、4年後だ。
岩崎龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル
サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続となる。
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