3大会連続の延長戦にもつれ込んだ決勝は、ドイツがアルゼンチンを1―0で破った。西ドイツとしてやはりアルゼンチンを同じスコアで下した1990年イタリア大会以来、6大会ぶり4度目の優勝を飾った。
「細かいところで勝敗が分かれる」。選手がよく口にする言葉だ。きっ抗する展開となった今大会の決勝戦も、わずかなボールコントロールの差が明暗を分けた。まず、延長前半7分に訪れたアルゼンチンの決定機。FWパラシオが左からのクロスを胸で止めるも、ボールはわずかに大きく弾んだ。その間にGKノイアーが鋭く飛び出すと、その迫力にけおされたかのようにシュートは左に外れた。
対して、延長後半8分にドイツが挙げた決勝点。同じような左クロスをFWゲッツェが胸で完璧にコントロール。間髪を入れずボレーシュートを放ち、GKロメロを破った。アルゼンチンのサベラ監督は試合前に「(ドイツには)南米的なボールさばきを見せる選手がいる」と評していたが、決定的な場面でドイツの技術が勝ったのは悔しいに違いない。前日の3位決定戦でブラジルに技術で引けを取らなかったオランダといい、南米開催のW杯で初めて欧州勢が優勝した今大会を象徴するような場面だった。
選手層の差も勝敗を分けた要因の一つだろう。ドイツの決勝点は、FWシュルレのアシストをゲッツェが決めた。ともに交代選手だ。一方、アルゼンチンが前線に投入したFWアグエロ、パラシオは精彩を欠き、攻撃面では今更ながらMFディマリアの負傷欠場が響いたようだ。後半41分に出てフレッシュなはずのMFガゴも、シュルレのドリブルを見送って失点の原因をつくってしまった。
決勝は組織力に勝るドイツが、ただ一人のエースに頼らざるを得なかったアルゼンチンに勝った。W杯に関しては「優勝チームがその後4年間のサッカーをリードする」とも言われる。前回の南アフリカ大会は、圧倒的なボールキープを生かして初優勝したスペインのスタイルが称賛され、お手本となった。
今大会のドイツもその流れをくむ。以前から備わる走力や強じんさなどの身体能力に、ボールを保持するスタイルを上積みして、よりダイナミックなサッカーに進化させた。さらに、主将のMFラームが「われわれは冷静で我慢強かった」と胸を張ったドイツ人の長所が加わり、栄冠をつかんだ。日本にとって、世界のサッカーのハードルはさらに高くなった気がする。
石川あきらのプロフィル
サッカージャーナリスト。1956年、東京都生まれ。慶応大学卒。「サッカーダイジェスト」の編集に携わり、編集長を務める。ワールドカップは1982年スペイン大会から取材を続け今回が9回目。
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