【W杯コラム】慣れによる強み
W杯開幕まで20日を切ったというのに、日本代表のブラジルでの拠点となるイトゥの宿舎はまだ完成していないそうだ。このままでは選手たちはペンキの匂いのする部屋に寝泊まりすることになる。もしそうなったら、選手たちはかなりのストレスを抱えるだろう。今更ながらブラジルという国の運営能力には大きな疑問符がつく。
国際大会でチームが好成績を収めるための条件。それはチームを支えるスタッフが、いかに選手たちのストレスを取り除けるかにかかっているのではないだろうか。余計なことに気を使うことなく、競技だけに集中する。その意味で日本は一つのアドバンテージを持っている。それがボールだ。
今大会の公式球として採用されたのはアディダス社と日本のモルテン社で共同開発された「ブラズーカ」。実はこのボールを国内のリーグで最も早く使用しているのがJリーグなのだ。シーズンが秋に始まり春に終わる欧州主要リーグ。国によって使うボールは違うが、シーズン途中でボールが変更されることはない。逆にJリーグは3月開幕なので最新のボールに慣れているのだ。
重さ、反発力など、細かい項目で基準が定められているボール。しかし、メーカーによってキックの感覚はかなり違うという。
4年前の南アフリカW杯。スペイン対オランダの決勝戦で象徴的なシーンがあった。オランダの選手が倒れ、スペインの選手がプレーを切った。その返礼としてオランダの選手がスペインGKに戻したボールが予想以上に伸びて、危うくゴールになりかけたのだ。
いろいろと物議を呼んだ4年前の公式球「ジャブラニ」。そのボールで決まった直接FKは4本。そのうちの2本が本田圭佑と遠藤保仁のゴールだったことを考えると、やはりボールに対する慣れというのは大きい。いろいろと問題がありそうな今回のW杯。そのなかでボールだけは、日本代表に対しての最大のサポートを約束している。
岩崎龍一[いわさき・りゅういち]のプロフィル
サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続となる。
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