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【五輪コラム】五輪の厳しい現実

[2014年02月20日 08:00]

 フィギュアスケート女子ショートプログラム(SP)で浅田真央(中京大)はトリプルアクセルの転倒に加え、コンビネーションジャンプ不成立という手痛いミスが出て55・51点、出場30選手中16位のスタートとなった。24選手によるフリーには進んだが、バンクーバーの銀メダルに続く五輪2大会連続のメダル獲得は絶望的だ。キム・ヨナ(韓国)が74・92点をマークして五輪2連覇に向けて首位発進。地元ロシアの17歳、アデリナ・ソトニコワが2位、27歳のカロリナ・コストナー(イタリア)が3位に続いた。74点台のわずかな差の上位3人が、金メダルを争うことになった。
 だからSPは怖い。ジャンプ3つ、スピン3つ、スパイラルシークエンス1つ、計7つの要素を、わずか2分50秒の間で、きちんとこなさなければならない。1つのミスが命取りになるとはいえ、手堅くまとめるだけでは勝負にならず、技の難度と出来栄えを追求して点を積み上げていく必要がある。
 キム・ヨナ、ソトニコワ、コストナーの3人には目立ったミスがなく0・80点以内の差で上位を占め、団体では無心の演技でロシアを初代金メダルに導いた15歳のユリア・リプニツカヤは、ジャンプの転倒が響いて5位にとどまった。全日本チャンピオンの鈴木明子(邦和スポーツランド)、五輪初出場の村上佳菜子(中京大)にはジャンプにミスが出て8位、15位とメダル争いでは圏外だ。
 団体のSPのトリプルアクセルで転倒した浅田の心技体のバランスは、完全には修復できていなかったと見る。トリプルアクセルは、アルメニアでの合宿やソチに戻っての公式練習では高い確率で着氷していたとはいえ、今シーズンは実戦で1度も成功していない。五輪の舞台の厳しい現実だと思う。
 もう投げ出したくなるほどの絶望的な気持ちだろう。眠れない夜になるかもしれない。それでも、浅田には銀メダルを胸にバンクーバーの涙の表彰台で誓ってから4年、思い続けてきた熱いものがあるはずだ。「最高の演技、納得のいく演技をしたい」。ならば、無心になってトリプルアクセルを、鮮やかに跳んでほしい。
 1992年アルベールビル五輪。絶望の淵にあった伊藤みどりが、フリーで成功したトリプルアクセルは20年以上を経た今でも、高さ、雄大さ、切れ味のどれをとっても色あせていない。この時、金メダルの期待を背負った伊藤は自慢のトリプルアクセルが絶不調で、現地入り後の公式練習でも調子は上がらなかった。現在のSPに当たるテクニカルプログラム(TP)を前に、トリプルアクセルからトリプルルッツへと難度を下げる苦渋の決断をする。金メダルのためには「TPでの出遅れが致命傷」の安全策だったが、難度を下げたルッツで転倒し、TP4位。自力での逆転優勝の望みは消えた。フリーでも序盤の挑戦で転倒したが、終盤に再チャレンジして五輪女子史上初のトリプルアクセルを決め、銀メダルに結びつけた。
 浅田のスケート人生の原点にある、伊藤みどりとトリプルアクセル。集大成の舞台であるならば、悔いを残さない会心のジャンプで笑顔を取り戻して閉会式に向かおう。
(共同通信社スポーツ企画室長 中村広志)

☆中村広志(なかむら・ひろし)1957年北九州市生まれ。共同通信でスケート、陸上、体操、五輪などを取材。冬季五輪は1992年アルベールビルから98年長野まで3大会を取材。名古屋運動部長、運動部担当部長を経て現在、スポーツデータ部長兼スポーツ企画室長。

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