新種目、フィギュアスケート団体の女子ショートプログラム(SP)に登場した日本のエース浅田真央(中京大)は8日、トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)の転倒など精彩を欠いて3位にとどまった。チームとしての日本を上位5カ国で争うフリー進出には導いたが、今大会を競技人生の集大成と位置づけ、4年前のバンクーバー五輪で逃した金メダル獲得を目指す浅田にとって、厳しいスタートとなった。
出場10人中の9番目が演技順。直前の8番でロシアの新星、15歳のユリア・リプニツカヤが軽快なジャンプと独特なスピンで会場全体の空気を引き寄せる。騒然とする雰囲気が、72.90の高得点のアナウンスでさらに高まり、23歳の浅田が、その歓声にすっかり飲み込まれた感じだった。
前半の5人が滑り終わった後の練習での滑りが重く、何度か天井を見上げ深く息をつくように見えた。「予想以上に緊張した。(ふだんの)練習通りに演技できなかった」。トリプルアクセルの確かなタイミングがつかめないもどかしさを抱えたまま、リプニツカヤに続く滑走へと入り込んでしまった。
開会式を前にした6日、団体はスタートした。年下の19歳、羽生結弦(ANA)がパトリック・チャン(カナダ)やエフゲニー・プルシェンコ(ロシア)ら各国のエースを圧倒した男子SPを、リンクサイドの選手席で見守り声援を送っていた。リラックスした笑顔からは五輪の大舞台に臨む悲壮感はうかがえなかったのに。世界選手権やグランプリシリーズなどの経験や実績も、何の役にも立たないのが五輪なのだ、という定番のフレーズが浮かぶ。
個人のSPは19日、フリーは20日に行われる。「同じような失敗を繰り返さないようにしたい」とは応じたが、かわいそうなくらいに表情が引きつっていた。前向きな気持ちになれるだろうか。10代半ばから熱い期待を背負ってきた国民的ヒロインは背負うものが大きい。
幅広くたくさんのファンがいる。競技にかける真摯な姿や、あふれる笑顔に安らぎを感じるという人が多い。原点は、名古屋市中心部の大須のスケートリンクにある。ここに通うことが楽しくて、人混みを縫ってくるくると軽やかに跳びはねていた小学生のころのまっさらな気持ちに戻ることはできないか。目の前に広がる景色は変わってくるかもしれない。
できることならソチで、バンクーバーの銀を上回るいちばん輝くメダルをと思う。でも、同じ色のメダルでも、違う色のメダルでも、たとえメダルがなくても、浅田が浅田らしく思う存分の演技ができれば、大きな拍手をもらうことができる。
(共同通信スポーツ企画室長 中村広志)
☆中村広志(なかむら・ひろし)1957年北九州市生まれ。共同通信でスケート、陸上、体操、五輪などを取材。冬季五輪は1992年アルベールビルから98年長野まで3大会を取材。名古屋運動部長、運動部担当部長を経て現在スポーツデータ部長兼スポーツ企画室長。
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