伝統つなぐ女性お風呂絵師
新人の女性お風呂絵師田中みずきさん(31)が、東京を拠点に全国各地の銭湯に出掛け、活躍している。銭湯専門の絵師は日本に3人しかおらず、女性は田中さんだけ。伝統を受け継ぎつつ、注文があれば老人ホームの風呂に絵を描くこともある。
美術史を学んでいた大学時代、初めて銭湯に入り「壁の富士山と雲と湯気が一体になって絵の中にいるような感覚」に衝撃を受けた。ベテラン絵師に弟子入りして9年間の修業を積み、昨年5月に独立した。
東京都江戸川区の銭湯「春江湯」の壁に、夜明け前の富士山が描かれていく。仕事道具のローラーを片手に「まだドキドキしながら、先輩方の後を追っている」と田中さん。
この日は、銭湯壁画としては珍しい薄暗い朝の写真を基に制作。「じっくり見ると新しい表情に気付けて新鮮」と、ローラーで壁にグラデーションを作っていく。濃い青空が塗り込まれ、女性らしい薄いピンクの光で山を彩り、優しい雰囲気の富士山絵を完成した。
湿気を浴びる銭湯のペンキ絵は数年ごとに描き直しが必要で、今回直したのは数年前に亡くなった絵師の作品。「毎回先輩の絵の上に描くので、切なくもなる。でもペンキ絵は月日とともに変わるもの」と真剣な表情で語った。
新しい富士山絵は、先輩が反対側の壁に残した大きな富士山の絵と向かい合うかたちに。田中さんは「見守ってくれているよう。若い人にもペンキ絵を見比べて楽しんでほしい」とほほ笑んだ。
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