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持続的な農業のためにNIEのバックナンバー

県立農業大学校農学部総合農産科2年生

環境、経営…大きな視点で

新聞記事を使い、環境保全型の農業について学ぶ学生たち=豊後大野市三重町の県立農業大学校

 「昔は日本各地、中国大陸、朝鮮半島とあらゆる所に生息していたとされている」
 県立農業大学校農学部長兼教授の浅田誠治さん(57)は、野生のトキが生息する中国陝西(せんせい)省で自然保護などの研修をした九重町の中学生たちによる報告会を伝える新聞記事を示した。町内では「トキのすめる田んぼづくり」が進められていることも載っていた。
 「日本在来のトキは絶滅した。なぜだろう」。浅田さんが尋ねると、学生たちは「餌が減った」「森林の伐採」「水が汚くなった」などと答えた。
 浅田さんはトキがきれいな羽や肉を目的に乱獲され、大きく数が減っていたことが大きな要因だったことを指摘。「既に数は減っていたが、1950年代以降に農薬が本格的に使われ始めて以後、田んぼのドジョウ、カエルといったトキの餌が減ったのも影響したといわれている」と説明した。
 「昔は有機塩素系など強力な農薬がたくさんあった。病害虫を防ぎ、農作物の生産性向上につながってきたが、土に影響が残るといわれてきた」と話した。大規模な農地整備が進んだことで餌が減ったとの見方も紹介した。「昔は田んぼに川から水を引っ張っていた。生き物が田んぼと川を行き来していたのに、コンクリート張りの水路になるとそれができなくなった」
 一方、農薬に関しては「時代は進み、今は厳正な審査を経て登録することが義務付けられている。昔に比べると格段に安全とされており、農業を効率化するのに役立っている」と背景を説明した。
 ここで、「このように今は農業のコストを下げることが求められている。なぜだろう」と質問。学生がすぐに「環太平洋連携協定(TPP)」と反応した。
 TPPの貿易交渉でコメや畜産を保護するための関税が撤廃されれば、安い輸入品が入ってくる。浅田さんは「高齢化が課題の農業を支えるには大規模で効率的、さらにもうかる経営を目指すことも時代の要請だ」と解説した。
 「農業をするのにもいろんな視点がある。トキがすめるような環境保全を進めることは持続的な農業にもつながる。一方で経営の問題もある。皆さん一人一人がどうしていけばいいかを考えてほしい」と呼び掛けた。

授業の狙い

「自然との共生」課題を投げ掛け

浅田誠治農学部長兼教授
「農業と環境の関係を考えていきたい」と話す浅田誠治農学部長兼教授

 戦後の農業は技術革新や化学農薬・肥料の使用などにより、効率化を図りながら急速に発展してきた。しかし、その一方で、農業の営みが環境に与える負荷が大きくなっていったことも事実である。
 そのような中で、より持続的な農業を営んでいくためには自然環境とどのように共生していけばよいのか―。その課題を解決していかなければならない。今回の講義で、「トキのすめる田んぼづくり」という記事をどう読み解いていくか、どう捉えていくのかを学生たちに投げ掛けた。農業の営みと環境との関係を考えてもらいたかったからだ。
 気を付けなければならないのは、物事を一方から見過ぎないこと。農業も産業の一つであり、グローバル化社会の中で高度化、効率化を大きな視点で捉える必要があることも伝え、農業と環境の関係を考えていきたい。

学生の感想

身近なまちでも…夢がある伊東拓真さん(22)

 九重町の取り組みは初めて知った。トキといえば佐渡島のイメージだったが、身近なまちでも生息する可能性があるのは夢がある。収量の確保に農薬は不可欠で、あらためて考えさせられた。

農薬状況によって判断する神代(こうじろ)朋子さん(19)

農業をするのに生態系について深く考えたことはなかった。農薬を使いすぎて生態系を壊すのもよくないし、全く使わないのも難しい。私は塩トマト農家に就職する予定で、状況によって判断したい。

生物守るために田んぼ必要横山和之さん(19)

 トキの保護を通じて、地域の農業を守っていく環境保全型農業について学ぶことができた。農業をする時にはあまり農薬を使わないようにしたい。生物を守っていくためにも、田んぼが必要だと感じた。

「優しさ」よく考えていきたい安東美紅(みく)さん(20)

 将来は有機農業をしたいと思っているので、「環境に優しい」ことをよく考えていきたい。消費者の食の安全、安心のニーズも高く、勉強している土づくりやおいしい物を作るのに授業で学んで役立てたい。

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