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公共の場のアート議論NIEのバックナンバー

別府青山高校1年生

文化の創造者は自分たち

公共の場のアートについて考える別府青山高校の1年生

 「公共の場で広がるアートについて考えてみよう」。1年1、2組の美術の授業で、岩佐まゆみ教諭(43)が21人に語り掛けた。
 国東半島アートプロジェクト(今年3月1日開幕)で峰道脇に設置した人体像(鉄製)の画像を鑑賞した。国際的な彫刻家アントニー・ゴームリー氏(英国)の作品だが、生徒からは「年老いた人の裸体に見える」「人体像が山にあるのは不自然」。さまざまな角度から撮った写真で人体像を見て、違和感を覚える生徒が多かったようだ。
 国東半島の天台宗寺院でつくる六郷満山会が人体像の設置に反対を表明した内容の新聞記事を配布した。主催者側の説明不足などの反対論を紹介する記事を静かに読み込んだ。
 岩佐教諭は仏教を深く学び、国東半島に作品を設置することの意味を見いだしたというゴームリー氏を紹介。神道と仏教が共存する国東半島での神仏習合の歴史についても資料を使って教えた。地元の農家が協力し、作品を設置する様子の写真も見せた。
 「人体像は鉄がさびるまで、恒久的に設置することになっています。皆さんは設置に賛成、反対どちらですか」と問い掛けた。
 それぞれ、じっくり考えた後、賛否と意見をワークシートに記入していった。賛成が18人、反対は3人―。双方の意見を出し合ってもらった。
 設置に反対する生徒は「自然の景観を壊すし、聖地に置いてほしくない」「人体像は目立つだけでなく、修行の邪魔になるのではないか」と主張。これに対して肯定的な生徒からは「地元の人が設置作業に協力し、理解を得ている」「異教を認め合ってきたのが国東の文化。異質なものとも共存すべきでは」「観光客に喜ばれると思う。地元のためにもなる」などさまざな反論が飛び出した。
 岩佐教諭は意見をじっくり聞いた後、「賛成、反対双方の意見をまとめる結論を出すことが重要ではない。作品を設置した地元ではさまざまな議論が起きているが、気付かせてくれるものがある」と語り掛けた。
 「アートには生活や社会を豊かにする大きな影響力があり、議論そのものが新しいアートを生む原動力にもなる。自分たちが文化の創造者であることを感じてほしい。国東半島や県内に残っている伝統や文化を知り、継承、保存していくことにもっと興味や関心を持ってほしい」とまとめた。

授業の狙い

継承、保存する意義を理解して

岩佐まゆみ教諭
「自分たちが文化の創造者であることを感じてほしい」と話す岩佐まゆみ教諭

 作品をつくるのが美術の授業だと思われがちだが、今回は芸術家の作品を画像で鑑賞するのと同時に、美術展を企画することの意味を考える授業にした。
 新聞記事を通して、社会で実際に起きている事象を仮想体験し、自分の意見を持って主体的に議論に参加することは、作品そのものや地域のイベントに深く興味を持つことにつながる。同時に、生活や社会を心豊かにする身近な芸術の働きや意味について考え、理解するよいきっかけになると考えた。
 美術の授業なので、新聞紙面で紹介された手続き論ではなく、作品が持つ本質の観点から考えた。生徒には県内に残る伝統的文化遺産を継承し、保存することの意義を理解してほしい。
 そして、その伝統の上に、新たな価値や文化を自ら創造しようとする態度が芽生えることを願っている。

学生の感想

賛否が分かれたことに驚き友永萌さん(15)

 新聞の見出しを見て、興味のある記事をよく見ている。授業では人体像を設置するだけなのに、賛否が分かれたことに驚いた。公共の場のアートには、地元の人の意見を積極的に取り込む必要を感じた。

地域の問題考えるきっかけ東保和樹君(16)

 新聞はほとんど読むことがなく、テレビのニュースで情報を得ている。授業を通じて、新聞が地域のことをよく知る手段だと分かった。地域の問題に賛成か反対かを考えるきっかけになった。

文化、伝統の素晴らしさ実感坂本聖樹君(15)

 大分県や国東半島には素晴らしい伝統や文化が残っているということが、授業や記事を通して分かった。これからは新聞をよく読んで、地域の問題を知り、知識を増やしていきたいと思った。

いろんな意見を知る機会に高倉瑠佳さん(15)

 新聞はよく読んでいるが、今回の問題は知らなかった。賛成か反対か、授業の中だけでも意見が分かれ、いろんな考え方を知ることができた。ほかの地域の問題も、機会があれば議論に参加してみたい。

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