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労働環境の課題学ぶNIEのバックナンバー

臼杵市北中3年1組

厳しい現状、変えるには?

社会科の授業で日本の労働環境の現状について学ぶ生徒たち=臼杵市北中

 「現代の日本の労働にはどんな課題があるか。解決するためにはどうすればいいのか」。臼杵市北中学校3年1組(38人)、首藤剛(ごう)教諭(43)の社会科の授業。労災死亡事故多発やパワハラ増加を伝える新聞記事を読みながら、生徒が日本の労働環境について考えた。
 首藤教諭はデータを示した。1999年から2010年までの10年余りで、賃金を得るために働く人の割合が増え、生きがいを見つけるために働く人が減った―というもの。「この背景にあるものは何だろう」と問い掛けると、女子生徒が「非正規社員の増加や賃金カット」と答えた。
 「そう。生活が苦しくてゆとりがなく、生きがいとは関係なく金を稼ぐために働かなければならない」。正社員と非正規社員の賃金を比較したデータも見せ「こんなに差がある。これが現実だ」と説明した。
 次に「世の中で一番大切なものは?」と尋ねると、「命」と男子生徒。首藤教諭は、労災事故の実例を描いたイラストと、県内で労災死亡事故が多発していることを伝える大分合同新聞(2012年12月11日付夕刊)の記事を見せた。
 「景気が悪いから労働者を減らし、安全対策がおろそかになる。金を稼ぐために働くのに命を落とすのはおかしくないか?」。パワハラの増加を伝える別の本紙記事も紹介し、職場でいじめが起きている実態を生徒に突き付けた。
 厳しい労働環境にある日本の現状を知った生徒たちは「安全確保を徹底していれば防げた事故は少なくない」「パワハラ攻撃はあり得ない」「いじめる人はどんな気持ちなのか疑問」と感想。そして首藤教諭は、この日の授業で最も難しい質問を投げ掛けた。「こんな世の中を変えるためには何をしたらいい?」
 生徒たちは班ごとに意見を出し合い、資料集をめくりながら答えを探した。「労働組合をつくり直す」「労働基準法を守る」「時間を守って働く」「企業の労働条件を行政が監視する」。思い付いた、さまざまな改善策を発表した。
 授業の最後に首藤教諭が示したのは「憲法27条」。賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める―。「憲法をしっかり知り、将来自分が反するような目に遭ったらおかしいと言わなければならない」。3月に中学を卒業する生徒たちに向けて、メッセージを送った。

授業の狙い

問題意識を持って考える子になって

首藤剛教諭
「憲法を知り、自分の意見をしっかり述べてほしい」と話す首藤剛教諭

 生徒はこれまでに教科書で、終身雇用や年功序列といった日本の雇用形態が変化してきたことを学んだ。その背景がどうなっているのか新聞記事を通して理解させたい。10年ほど前より現実は厳しくなっている。金よりも命が大切で、金を稼ぐために命を落とすことはとんでもないんだということを生徒に教えたい。
 中学生は働くということにまだ現実味がない。安定を求めて有名企業に就職させたいと思う親もいるが、今は入社したとしても厳しい状況があると教える必要がある。問題意識を持って現状を知り、考える子になってほしい。
 世の中はどんどん変わっており、教科書では追い付かない部分がある。社会科の授業では新聞記事は絶対に必要。パソコンやスマートフォン(多機能携帯電話)などの電子媒体が増えているが、記憶に残りやすく、保存もできる紙に書かれた活字を読ませたい。

生徒の感想

気を付けて会社を選択岡田瑞樹君(15)

 大人になって会社に入っても、いじめがあるという現状がよく分かった。気を付けて会社を選択したい。生活するために働いているのに、職場で死んだら何のために働くのか分からない。よく考えて働きたい。

自分の意見を持ちたい伊賀上友里さん(15)

もし自分がパワハラに遭ったらと思うと怖い。職場の上司と仲良くできたらいいなと思う。誰でもしっかり意見が言える雰囲気づくりが大切。新聞のニュースを見て勉強し、自分の意見を持ちたい。

憲法の決まり、守らねば森崎令士君(15)

将来、自分が働く環境はひどくなっている。政治にも参加し、自分の働く環境がよくなればいいと思った。憲法で決められたことは守らなければならないと、意思を持って発信していかなければならない。

過労死の原因分かった山岡満里奈さん(15)

なぜパワハラや過労死が起きるか疑問だったが、原因が分かった。上司は仕事が少なくなりストレスを感じて部下に八つ当たりしているのではないか。人間関係がいい職場が、安定している職場だと思う。

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