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2年ぶり全国学力テスト コロナ禍「学び」どう確保/ 家庭環境、格差大きく一般記事バックナンバー

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、2年ぶりに実施された「2021年度全国学力・学習状況調査」で、文部科学省は一斉休校と正答率に相関関係はないと分析した。ただ、子どもたちの「勉強への不安」の声は根強く、オンライン対応も新たな課題として浮かび上がった。読解力など基礎的な学力向上が求められる中、新聞を読む回数が多い子どもほど、平均正答率が高くなる結果も示された。コロナ禍の教育現場には何が求められているのか。

 2年ぶりに実施された全国学力テストは新型コロナウイルスの影響が焦点だった。8月31日公表の結果は例年と大きく変わらず、安堵(あんど)した様子の文部科学省。ただ教育関係者は「昨年の一斉休校以来、家庭の学習環境の差が学力格差に一層つながりやすくなった」と懸念する。感染の「第5波」で、各地で再び長期休校となる恐れが現実味を帯び始める中、子どもの学びをどう保障できるのか。

(ひとり親家庭半数)

 「今日から長文問題をやっていこう」。経済的に困窮する世帯の中高生を対象に無料の学習支援を行う「八王子つばめ塾」(東京都八王子市)。7月の平日夜、ボランティアの女性講師が中学3年の6人に語り掛けた。基礎を固めるため、中2の英語を復習できる問題集を一緒に解いていく。

 塾生はひとり親家庭が半数近く、保護者に勉強の相談をする時間が持ちにくい。小さなアパートで幼いきょうだいと生活し、自分の部屋がないこともある。一斉休校の際には「やる気が出ず、学校から配られたプリントは正解を見て穴埋めした」と嘆く声が上がった。

 小宮位之理事長は「対面で丁寧に指導する中で少しずつ意欲を取り戻した。学びには人とのつながりが不可欠」と話す。

(さらに詳細分析を)

 「コロナ下の学力と学習状況の把握」を目的に掲げた今回の全国学力テスト。同時に実施したアンケートでは、学校側に休校日数のほか、動画配信や同時双方向のオンライン指導といった学習支援を行ったかどうかを尋ねた。児童生徒には「勉強に不安を感じたか」など、一斉休校を振り返る四つの質問を設け、細かく調査した。

 文科省の分析では、学校、児童生徒ともに、いずれの項目も「アンケートの回答と平均正答率との間に相関関係が見られない」との結果に。「一斉休校の悪影響が明確化するかもしれない」と危ぶんでいたある幹部は、胸をなで下ろした。

 一方で担当者らは「コロナの影響は長期的に出る可能性がある」とも認める。教員らが最初に目を通すとされる結果の概要ペーパーには「さらに詳細な分析が必要」と慎重な言葉を加えた。

(対面指導など模索)

 民間調査では既に深刻な実態が浮かぶ。子どもの貧困問題に取り組むNPO法人「キッズドア」(東京)は4月、食料支援をした約2千世帯にアンケートを実施。「コロナ下で子どもの学力に変化があったか」との質問に、46・5%が「悪化した」と回答し、収入減などで学習塾や習い事の支出を負担できなかった家庭は半数超に上った。

 渡辺由美子理事長は「塾に好きなだけ通え、オンライン学習の環境が整う家庭との間で、格差が大きい。現在も感染状況によって臨時休校や分散登校、学校施設の利用制限が行われ、家庭学習が難しい子どもはハンディキャップがある」と警鐘を鳴らす。

 各地で新学期がスタートする中、感染力の強いデルタ株の拡大が続く。「休校になっても仕事は休めず、近くで勉強を見てあげられない」。小6の長男(11)ら3人を育てる福岡県のシングルマザーの女性会社員(39)は、自宅にパソコンやWi―Fiがなく、オンライン授業になった場合の不安を訴える。

 琉球大の村上呂里教授(教育学)は「学習環境が整っていない子ほど、教員と関わり、友人と学び合う学校が重要な居場所になる。オンラインで学びを継続すると同時に、何らかの形で触れ合いや対面指導を模索する必要がある」と指摘した。


【新聞読むほど正答率高く】

 児童生徒アンケート結果を文部科学省が分析したところ、新聞を読む回数が多い子どもほど、平均正答率が高くなるという相関関係が全教科で示された。

 「新聞を読んでいますか」との質問に「ほぼ毎日」「週に1~3回程度」「月に1~3回程度」「ほとんど、全く読まない」の選択肢を用意し、それぞれを選んだ子どもの各教科の平均正答率を比較した。

 小学校の国語と算数、中学校の国語と数学の全教科で「ほぼ毎日」の平均正答率が最も高く、読む頻度が下がるにつれて正答率も低くなった。例えば、小学校国語の正答率は「ほぼ毎日」が74・7%、「週に1~3回程度」71・9%、「月に1~3回程度」66・4%、「ほとんど、全く読まない」62・9%。

 中学校数学でも、「ほぼ毎日」で65・3%、「週に1~3回程度」64・4%、「月に1~3回程度」60・1%となり、「ほとんど、全く読まない」では56・1%だった。

 一方、新聞を読む習慣がある子どもは減少。19年度と比べると、「ほぼ毎日」は小学校が1・8ポイント減の5・3%、中学校が1・0ポイント減の3・5%。「ほとんど、全く読まない」は小学校が8・9ポイント増の70・1%、中学校が5・5ポイント増の76・4%だった。

長期にわたる、状況把握必要
 ◆解説◆8月31日に公表された全国学力テストの結果で、文部科学省は昨春の一斉休校の期間と正答率に相関関係はないと分析した。しかし、コロナ禍によるさまざまな活動制限は今も子どもたちの心身に影響を与えており、一つのテスト結果に安心することなく、長期にわたり学力状況を把握していく必要がある。

 児童生徒へのアンケートでは、休校中の課題で分からない部分があっても、誰にも相談できなかった児童生徒が一定数いたことが明らかになり、「勉強への不安を感じた」との回答も多かった。

 「読解力など基礎的な学力が弱くなり、現在も伸び悩んでいる」と感じる教員は少なくない。経済的に困窮する世帯では家庭での学習環境が整っておらず、休校が学力格差を拡大しているのではないかとの懸念が出ている。

 デルタ株の広がりによって、校内感染による長期休校の恐れが強まっている。ただ、学校のオンライン対応は心もとなく、再び一部の児童生徒が取り残されてしまう事態が想定される。国は学習機会を保障するため、学校だけでなく、家庭への支援を拡充するべきだ。

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