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相次ぐ高齢者事故と対策NIEのバックナンバー

日本文理大学1年生

「人ごと」とせず知恵絞る

新記事を読み、課題を理解する1年生=大分市の日本文理大学

 日本文理大学が「地域創生人育成入試」で受け入れた1年生を対象に月1回開いている「おおいた、つくりびとプログラム」。新聞から課題や問題を知り、地域で活躍できる人材を育てる授業で、約80人が学んでいる。

 教材は、全国的に相次ぐ高齢者による事故と対策をまとめた大分合同新聞11月13日付朝刊の記事。死亡事故で高齢者が過失の重い第1当事者になる割合が高まっていることを示し、加齢による認知能力などの低下を踏まえた警察庁の対策強化について説明している。同大学人間力育成センターの高見大介副センター長は、記事が何を示そうとしているのか読み取り、ワークシートに記入するよう学生に指示した。

 「今までに交通事故を経験したことは?」「自分の不注意で通行中にヒヤッとした経験は?」と学生に尋ね、回答を教壇のパソコンで集計した。事故経験は「同乗者として」を含めて5割強、ヒヤリ経験は8割強が「ある」と回答。事故への関わりが人ごとではないことを学生に印象付けた。

 子どもたちも被害に遭う事故が多発する一方、高齢者の立場に立つとどうだろう。高見副センター長は、大分県のデータの説明を始めた。直近の公共交通機関や商店、病院までの平均的な距離を山間地、中間地、平地に分けて紹介。高齢化が進む県内では生活に必要な施設が山間地ほど遠く、高齢でも車が手放せない状況と、不便でもそこに住み続けたいと考えている住民アンケートの結果も示した。

 事故防止と高齢者の生活を両立させるには―。学生に解決のためのアイデアを考えてリポートにまとめるよう指示。「コミュニティーバスのエリアを広げる」「ブレーキアシストなど、高齢者向けモビリティー技術開発の加速」「若者が高齢者の生活をアシスト」「ICT技術を使った、通信販売など高齢者向けのサービス拡充」などの発想が飛び出した。

 高見副センター長は「加害者だけ、被害者だけの目線で考えるのでは、建設的な提案は出てこない。大きなテーマにも自分ごとのように頭を悩ませ心を痛め、知恵を絞って解決策を導き出してほしい」とまとめた。

授業の狙い

「社会の一員」自覚を

人間力育成センター 高見大介副センター長
人間力育成センターの高見大介副センター長

 学生から社会人へと成長する際、多少の“混乱”が生じがちになる。この混乱を最小限に抑え、スムーズに立場を移行するため、一昨年からの「おおいた、つくりびとプログラム」で新聞を活用し、地域人材の育成に力を入れている。

 自分が地域社会の一員という自覚を持って新聞を手に取り、掲載された問題、課題を人ごとではなく、自分のこととして捉えることが重要。必要があれば現地にも出向き、未来を真剣に考える。

 今回取り上げた高齢者事故の記事は、自分と関係ないように見えるが自分につながることがあるということに気付かせようと題材に選んだ。

 新聞などの情報媒体は、地域社会からの手紙。受け取った学生は、自分も社会の一員という揺るぎない価値観を手に入れる。社会の主人公になる準備も始める。記事を手掛かりに地域にやって来た若者が住民とつながり、互いに意味を持つ存在になる。米国の作家ジョン・スタインベックの言葉「少年は必要とされて大人になる」を具現化する主権者を育てたい。

学生の感想

記事読み考え方深まる重光隼希さん(19)

 相次ぐ高齢者事故の記事を読んで、他にも多くの事故があるのかな、小さな課題と考えてはいけないのかなと思った。小さいころから憧れている自衛隊で活躍できるよう、地域の勉強も深めたい。

話を聞き、いい方法思案八坂龍汰郎さん(18)

 記事を読んで高齢者の事故を減らすため、認知能力が低下した人からもしっかり話を聞き、いい方法を考えていくことが大事だと思った。地域活性化を盛り上げていける人材になれるよう頑張りたい。

データ見て理解深まる石井綾華さん(18)

 高齢者の事故が多いことはよく取り上げられているけど、記事中のデータが分かりやすく、あらためてよく分かった。将来の夢は学校の先生。子どもたちと一緒に、地域に密着できる活動をしてみたい。

他人の考えも踏まえる児玉流石さん(19)

 自分も運転をするので、事故を起こす怖さは人ごとではないと感じた。新聞を読む授業で、他人の考えも踏まえて意見をまとめるのが好きになった。将来は建築を通じてまちの活性化に貢献したい。

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